うそー! 本当? 第四話

 かつて、ある男がおりました。 彼は総合商社の営業担当で 

 ニューヨークに駐在中のことです。 日本から輸入している主力

商品の競争相手がスカンジナビア半島におり、毎月輸入通関統計で

数量・金額を見ていました。 すると、そこに関税率が表示されている

のですが、日本品は10%くらいなのに、競争相手の国からの税率は

2%くらいなのです。 もともとは日本品もその低率関税だったのですが、

米国の国内メーカーからの圧力で高率関税に変更されたのです。

 国内メーカーの言い分は正しかったので、反論の余地は無く、黙って

従ったわけです。 ところが、上記の通り、ヨーロッパの競争相手の

税率は変更を免れていたことになります。 そこで、運輸部と社内

弁護士を使って、取り敢えずニューヨーク税関にクレームの申し立てを

しました。

 ところが、毎月の通関統計で見る限り、米国税関がアクションを

起した形跡が見えず、引き続き、運輸部にニューヨーク税関に抗議

させましたが、らちが明かず、彼を入れてのランチョン・ミーティングを

設定してもらいました。 すると、税関担当者が彼は何も出来ないが、

この様な場合はワシントンの財務省に直接かけあえば、何とかするだろうと

教えてくれました。

 早速、ワシントンの担当官に手紙で事情を説明し、面会のアポイントを

取り付けました。 相手の事務室で協議を始めると、相手は「何故、

弁護士を同伴してこないのか」と訊くので、一寸怯みましたが、素知らぬ

顔で「こんな簡単なことに弁護士が必要か。 こちらの希望は単にアンフェア

な状況を解消して貰いたいだけだ。 それに、競争相手の税率を正しい税率に

改訂すれば、米国の国益に寄与するではないか。と主張したら、即座に

「分かった。善処する。」とのことなので、文書で回答を貰いたいと云ったら、

それは出来ないと断られました。

 然し、輸入通関統計をチェックしていたら、競争相手のほうの税率が

高率関税になりました。

 彼の話では、流石アメリカだと感心はしながらも、若造の自分が良くぞ

やれたものだと、冷や汗ものだったそうです。