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うそー! まさか! 第五話

 昔、むかし、ニューヨークのマンハッタンのど真ん中、ミッドタウン

での出来事です。道幅が広かったから57St.だったと思います。

 30台の日本人の男3人が日本食レストランで食事を終えて、次は

日本人バーに繰り出そうとしていました。

 タクシーを捕まえるために車道に向かって、舗道の端に3人別々に

離れて立ち、通りかかるタクシーに「タクシー!」と叫んでいました。

 一番右端に居た男のところに、背の低い醜い顔の老婆が近づき、

「可愛い子がいるよ。案内するよ」と声を掛けてきます。これから

バーに行くところだから、「要らないよ」と断ります。ところが、

婆さんはしつこく食い下がり、ついには彼に抱き付いてきます。

彼が軽く突き放すと、諦めて離れて行きます。

 タクシーが中々捕まらず、もたもたしていたら、彼女がまた

寄ってきます。そして、再び、うるさくまとわりつき、抱き付いて

離れたとき、一番左に立っていた男が、「財布を取られたぞー!」

と叫んでいます。

 慌ててて、上着の内ポケットを探ると、右も、左も、空です。

 ようやく、スリだと気付き、「財布を返せー!」と叫びながら

婆さんを追います。すると、婆さんは「No! No!」と叫びながら

右のほうに逃げます。追いつきそうになった辺りで、若い男が運転する

小型のピックアップ・トラックが寄ってきて、婆さんはそれに跳び

乗って逃げてしまいます。

 バーに着くや否や、クレジットカード会社に電話してカードの盗難を

届けますが、スリに気づいたのがお客だったので、間抜けぶりが恥かしく

お酒の味も分からず、話も弾まず、唯一幸運だったのは、掏られたのは

クレジットカードや名刺が主で、現金は他のポケットに裸で入れてあって、

無事だったことです。

 つまり、スリは1回目で掏った財布に現金が入っていないので、再度

もう片方の内ポケットを掏ったのですが、無駄骨を折ったわけです。

 用心をしておいて良かったという「オチの無い」落語の小噺みたいな

話でした。