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うそ―! ほんと? 第十三話

 昔、ある男から聞いた、一寸だけ不思議な話です。

 

 彼は、日本から世界中に鋼管を輸出するという仕事についていました。

最初は石油井戸の掘削用のチューブとか、噴出した原油精油所に輸送

するパイプライン用のパイプとかの輸出で、お客は中近東、南米の政府の

石油を管轄するお役所でした。 競争相手はドイツとイギリスでした。

日本はまだメーカーが2社しかなくて、手を組んで入札に参加して

いました。 落札出来たら、2社が交代に受注する方式です。

情報を入手するために、スパイもどきのこともやり、裏工作もした

そうです。

 

 然し、この商売も競争とか資源の枯渇とか、今では理由は分からく

なりましたが商売が途絶えてしまいます。

 

 鋼管の用途にはガス・水道用もあれば、電気の配線用とか、建設現場

の足場管とか、直径の細いパイプ類が多いのですが、直径が1メートル

以上の大径鋼管もあります。 用途は地下埋設用の上下水道、農業用の

灌漑用、建設現場で使うくい打ち用などもあります。 大径鋼管は普通

コンクリートや鋳鉄管が使われますが、重くて扱いが大変です。

 

 米国西海岸のアリゾナ州で灌漑用に肉厚の薄い大径鋼管を使っている

ことがわかり、日本の一部のメーカーがこの市場に進出し、彼の部署でも

この商売に取り組みます。

 

 不思議な話とは、ここにあるのです。 輸出には貨物船を使いますが

運賃は重さの場合と容積の場合とあります。重量トンと容積トンといいます。

いずれも単位は1トンです。 重量トンはその名のとおり、1トンは千キロ

です。容積トンというのは、1.113立方メートルのことです。鉄のパイプでも

肉厚が薄い大径管は重量は1トンでも容積トンは2トン以上になります。

業界では「空気を運ぶようなもの」と云われていたそうです。そこで、

日本のメーカーはウルトラC級の輸送法を開発したのです。

 

 つまり、2本の直径が少し違う大径管を重ねることを考えたのです。

例えば、外径200CMの大径管を外形240CMの大径管の内側に

挿入し両端にかすがいを打ち込んで動かないように固定します。

すると、外形240CMで肉厚は倍になり、容積トンは重量トンより

小さくなります。これで、運賃が半分以下になり、価格競争力が

大幅アップします。その後、3本を一体化するまでにいたります。

一寸面白いのは、この方法のネーミングで「ネスティング」と名付た

のです。「ネスト」とは「鳥の巣」のことです。一寸判り難いですね。

 

 半世紀前の日本の技術開発力を示す一例ですが、凄さがお分かり

頂けますか。