へー、ほんと? 第二十三話
二十二話の続きです。 説明が遅れましたが、彼が突然一人で
クラブに行き出したのには理由がありました。
彼は最初は29才でニューヨークに単身赴任、2年で一旦帰国、
36才で二度目のお勤めでした。
元々筋肉が異常に堅かったのが、いろいろな原因が重なり、
41才で「四十肩」になり、幸い半年で治ったものの、
筋肉への負荷を減らす必要を感じます。
彼の住まいはニューヨーク市のクイーンズ区の中心、ロング
アイランドのジャマイカという地域にありました。
ここは、ジョン・F・ケネデイ空港にも、ラグアーデイア空港にも
近く、会社のオフィスがあるマンハッタンのダウンタウンにも車で
1時間以内と便利なところにありました。
ところが、ニューヨークから南のニュージャージー州にある
営業所に勤務することになります。 彼の住まいからは車で90分
かかります。 常識では、勤務先が変われば、近くに転居する
のですが、子供達の学校の都合で転居しなかったのです。
この車の通勤が筋肉に負担になる筈で、その解消のために、
帰宅途中、時々は、マンハッタンで休憩することにしたのです。
そして、馴染みになった女の子のいるクラブに週に1~2回
立ち寄ることになったのです。
韓国人は日本人よりおおらかで積極性があるのですが、この
彼女も最初すごく暗かったのが、何回も会ううちに、どんどん
打ち解けてきて、理由を話してくれました。 彼女は結婚して
数年経っても子供が出来なかったのですが、夫は外に若い女が
出来、妊娠したので、別れてくれと云い、子供が出来ない
自分が身を引くしかないと、離婚に応じたそうです。
然し、怒りと絶望感で睡眠薬自殺を図ります。ところが、
量が多過ぎたのか、苦しみで床を転げまわりながら吐いて、
未遂に終わります。そのときの、寒さと苦しみと恐怖は二度と
繰り返す気が起きない程だったそうです。
その告白からあとは、完全に立ち直り、彼との仲も深まり、
友達のアパートに一緒に行くと、ボーイフレンドだと紹介する
ようになります。お互いの知っているレストランで食事をしたり、
彼女がオーナーを知っている他のクラブにも一緒に顔をだします。
ところが、彼女の態度が冷淡になってきて、どうしたのかと
聞くと、みんなに結婚している人と付き合ってどうするのと
云われたとしょんぼりしています。 これには、答えようもなく、
ついに、あるとき、突然電話が通じなくなり、アパートのドアを
叩いても返事がありません。 LOVE IS OVER でした。
然し、彼女が苦境を乗り越えるのに手を貸せたという満足感が
残り、何も言わずに姿を隠したのも彼女の思いやりと受け止めた
そうです。