「タイプライター」という文房具

 現在のデータ入力はキーボードのキーを使って入力したり、

手書き入力とか、音声入力とかあるが、基本はタイプライター

という文書作成の道具である。 ちなみに、IBMという

コンピューター業界の「巨人」も創業者はタイプライターを

売り歩くセールスマンだった。

 昔はタイプライターを操作するのは女性の仕事で、「タイピスト

という職種もあった。 筆者は高校時代に総合商社に高卒で就職

した先輩と会う機会があり、将来は総合商社に就職して、貿易の

仕事をしようと決意を固めていた。

 入学した大学は、当時、東京都北区西ヶ原にあり、自宅は東京

タワーの近くだから、都電という路面電車を乗り継いで通学すると

片道1時間半くらいかかった。朝寝坊には一時限目はしんどい。

だから、必須科目1科目だけにして、他の日は空けておいた。

 大学にはタイプライター室があって、20台くらい置いてあった。

今ならパソコン教室というところ。大学に着くとタイプライター室に

直行。教本を見ながら独習。ところが、専攻の外国語に使われる

特殊な活字がついていない。 仕方が無いから、親にせがんで神田の

専門店に付いて行って貰い、中古品を購入して貰った。

 運の良いことに、映画会社の東映が日本映画を東南アジアに輸出

しており、日本語のシナリオを現地業者が字幕用に翻訳する訳だが、

日本語は読めないから、ローマ字表示にしたものが必要であった。

その仕事にありつき、自宅で完成して納入し、そのバイト代で

タイプライター代金は回収してしまった。

 さらに、専攻外国語の教材となる原書も先生が持っている1冊

だけしかないので、コピーをつくるのだが、業者に頼めば高い。

そこで、筆者が、自宅で、活版印刷用の原紙にタイプして、大学の

印刷設備を使わせて貰って、必要部数の写しを作り、原価でクラス

メートに配布したりした。

 筆者がタイプライターを使いこなそうと考えたのは、総合商社に

進んだら、タイプの技術は必須だと考えたからである。実際、海外

支店とのテレックス交信、見積書、契約書、輸出文書、など、

タイプが打てなければ、入社後タイプを練習をすることになり、

苦労するところだった。 勿論、アシスタントを採用して、楽には

なったが、海外支店に赴任すれば、自分の事務能力が頼りであり、

大学でマスターしておいて良かった。 

 現在80才を過ぎても、パソコン入力に不自由が無い。むしろ、

パソコンを使いこなすことが出来て、毎日退屈することがない。

これからは、タッチ入力や音声入力が発達するだろうが、タイプ

技術の必要性は無くならないと思う。