うそー! 本当? 第三話

 昔、ある男がおりました。

 実家は関西の神主さんの家柄。 お兄さんが後を継いでいました。

 彼は、W大商学部卒、某関西系総合商社に勤務していました。

若い時から白髪まじりの神主さんらしい風貌の男でした。

然るに、彼の勤める会社は長年の業績不振で、折角築き上げた

商圏の維持が難しい状況となります。

 綜合商社というのは、長良川の鵜飼いの鵜みたいなもので

銀行・損保が背後についていて、いくらでも現金を廻してくれて

利息を巻き上げられる存在です。

 証券取引における信用取引みたいな側面もあります。

 従い、業績不振になると(保有株が値下がりするのと同じ)、

利息の支払いが困難になり、さらに、融資を受けて債務が膨らみ、

不良債権化していきます。

 彼の勤める会社Gの最大の株主であるT銀行は、もう一社の融資先

である総合商社のKに吸収合併させて、融資の保全を計ります。

Kは時代の先行きを読んで、機械・電子部門を強化し、健全財政の

優良企業です。

 当然、G社は人員削減、固定資産の流動化などの合理化を進め、

K社との合併に備えます。

 そして、彼は合併後の新会社に移籍します。仕事が出来るかどうか

問われる年代は過ぎており、即戦力として、ニューヨーク駐在、

ドイツ駐在など海外勤務のあと、帰国後は部長に納まります。

 個人的には、兄が他界、関西の実家を処分し、会社が募集中の

鎌倉の宅地開発物件を購入、豪邸を新築します。 そして、晩婚

だったために子供たちが幼いので、彼等の将来のために3億円の

生命保険に加入します。

 然し、重役への昇進とはいかず、関連会社の総務部長に再就職

させられます。出向だと本社にポストが空くと呼び戻されることも

ありますが、彼の場合は完全に見捨てられたのです。従い、同社の

定年である60才でお払い箱となります。 然し、彼は悠揚迫らず

前から行きたかった中国観光に出掛けます。

 ところが、今時珍しい奇病とも云えるし、中国ならではの風土病

とも云える破傷風という病気にかかります。 発見が早く、すぐに

入院治療しないと命に関わる病気です。

 彼は運悪く手遅れになり3~4日で命を落とします。

 ああ、やんぬるかな! 彼は幸せだったのかどうか?