メ リ ー
僕が中学生のときだったね、お前が北海道から送られてきたのは。
シェパードのくせに、身体も大きいのに、仔犬が寄ってきても、
怖がって逃げるなんて、やっぱりメスだったからかなあ。
名前はメリーしか思いつかず、両親も喜んでくれ、一発で決まった。
自転車で散歩させているとき、自分よりずっと小さい犬に吠えられて、
急に逆走して僕と自転車を引きずり倒し、お蔭で僕は肘を擦りむいて
しまった。
戦後数年後のことで、食べるものに不自由していたから、餌には
苦労した。 北海道産だから、じゃがいもを食べられるだろうと思い、
お肉屋さんで豚骨を安く分けて貰ってきて、豚骨ジャガイモ雑炊を
作ってあげたら、喜んで食べてくれた。
折角、血統書付きのお婿さんを見付け、一緒にしてあげたのに、
お尻を地面にこするようにして、逃げ回ってばかりで、仲良くなって
くれなかった。 放し飼いにしていたから、種類の分からないオスと
仲良くなって、可愛い仔犬を10匹生んでくれた。
幸い、全員雑種ではなくシェパードらしく育ち、一匹残らず貰い手が
見つかった。 一匹は残したかったが、餌の心配もあり、お前には可哀
そうなことをしたね。
外で悪いものを拾い食いしたのか、帰って来てから苦しみ出し、
朝起きたら冷たくなっていた。 一度でも母親として子育ての喜びを
味わうことが出来たのが、せめてもの慰めだった。
遺体は、庭も無いので、どうしようかと考えていたら、池上の本門寺で
ペットを引き取ってくれることを知り、ベソをかきながら毛布に包んで
自転車の荷台に載せて連れて行った。
それ以来、別れが辛いから、生きものは金魚も小鳥も飼っていない。