五木寛之「青春の門」に思う
若い時は勉強より文学全集を読み漁る時間のほうが多かった。
年を取り、身体が老化してきたら、小説への興味が戻って来た。
筆者は一人の作家が気に入ると、その作家の作品ばかり読むという癖
がある。
近年の傾向は内田康夫の旅と歴史を盛り込んだ推理小説、風景の中に
男女の営みを描いた渡辺淳一の作品、そのあとは各賞に輝く女流作家に
触手を伸ばしていた。
最近、忘れられない作品で、途中までしか読んでいない、五木寛之の
「青春の門」を最後まで読みたくなり、第一部「筑豊篇」から第七部
「挑戦篇」までの文庫版を一括購入した。
40数年前から20年にわたり書かれたものを、一挙に読んでしまった。
主人公の伊吹信介は、人生の目的を探して地球上を放浪するらしいが、
男なら誰しも憧れるヒーロー像である。 筆者も仕事ではあったが、
北南米、欧州、アフリカ大陸と距離だけは、伊吹信介を上回る足跡を
地球上に残し、似たような不安な思いを抱き、かつ、異国の風物、
外国人との触れ合いに胸躍らした体験の故か、彼の進む
将来は如何なるものか見届けたい思いが強い。
驚いたことに、第七部で未完かと思っていたら、筆者が読んでいる
最中に、第八部「風雲篇」が20年ぶりに発売されると知り、すぐに
予約したら、正確に予定日の12月15日に到着、こ踊りして即日
読んでしまった。
そして、同時に、来年2017年に続編第九部「続・青春の門」の
連載が始まるというニュースも届いた。 確かに、第八部でも物語は
途中である。
半世紀をかけても、終わりの見えない物語というのは聞いたことが無い。
もしも、筆者の方が先にこの世を去ることになったら、結末はあの世で
原作者から直接聞かせて頂こう。