そんなことあり? 大学受験 第九話

 彼自身、未だに信じられない、小さな幸運の話です。

 

 彼の学業の成績は平均よりは上ながら、特に優秀とは言えなかった。

高校に入った時は進学校に合格して、未来は明るかった。ところが、

授業の内容は中学と高校の間には大きな違いがあり、彼はついて行けず

落ちこぼれてしまった。 然し、貧しくて塾とか予備校には行けなかった。

何となく3年間を過ごし、大学受験を迎えても、全く受かる気がせず、

何処も受ける気は無かったが、公立を1校だけ受験して不合格でも、

何とも思わなかった。

 

 就職という選択は無く、大学受験のために、予備校に入った。

ここでも、学力がついたとは思えず、案の定、翌年の受験は一次試験も

通過しなかった。 中学時代、高校時代と、勉強が上滑りで、何も

頭に残らなかったような気がしていた。 そこで、浪人2年目は

予備校には行かず、昼間は図書館で参考書を借りて、勉強方法を

考えながら独学した。 他には、通信添削を申し込み、全国の

受験生の中で自分の力がどの辺に位置しているかを見ていた。

 

 その結果、自分としては自信を持って受験に臨み、一次試験は

通過した。 然し、二次試験は落ち、がっかりした。 生まれて

初めて、死にたいと思った。 精神的にそこまで落ち込んだら、

逆に、折角授かった命だから、大学には拘らず、出来ることを

いろいろやってみて、落ち着くところに落ち着けば良いと諦めが

ついた。

 

 取りあえず、近所の私大の学食のヘルプの募集があったので

採用して貰った。 仕事は雑用掛かりだが、中・高・大学一貫校

なので、接する相手も、中学生、高校生、大学生、教員、教授、

調理場の親方、同僚など、飽きることは無く、夏休みで休業まで

夢中で過ごし、教科書・参考書などには全くノータッチであった。

 

 ところが、夏休みになって、考える余裕が出来た。 高卒で

就職するのと、大卒で就職する場合の違いを考えたら、やはり、

大学に入りたいという欲が湧いて来た。そして、残る6~7か月、

最後の踏ん張りを利かしてみようと、一大決心をしたのである。

 

 それまでは、一期校と滑り止めの二期校とダブル受験したのを

二期校のみに絞ったのである。一期校の受験科目は英語1、国語2、

数学2、理科2、社会2の7科目で配点は各100点、合計700点。

二期校は英語が300点、数学は無し、国語1、理科1、社会1、

国理社は各100点、合計600点。2校に対する勉強の仕方は

まるで違う。 彼は、理数が苦手、英国社は得意だったから、

二期校に絞ることにより、より大きな力が出せたのである。

 

 遠回りしたせいで、3浪はしたけれど、そして、第一志望校では

なく、第二志望校だったが、とにかく国立大学に入れたのである。

 

 凡才しかない男が望みを果たせたのは、幸運の女神が微笑んでくれた

としか思えないのだがどうだろうか。